「発達障害は一生治らない」と決めつけず、試行錯誤する仲間の交流サイトです。ご自由にご活用ください!

『医者が教えてくれない発達障害の治り方 その1』あとがきです!

こんにちは。
『医者が教えてくれない発達障害の治り方 その1』
あとがきを発表いたします。
我々はこういう思いでこの本を送り出します。
どうぞお楽しみになさってくださいね!

あとがき 大久保悠

二〇一一年三月十一日、我が家の長男は妻のお腹の中にいました。町が一瞬にして津波に飲みこまれる映像、被災された方達の姿と声、日本全体が悲しみと不安で包まれていた中、妻は妊娠後期から出産を迎えました。生まれた息子は健康そのもので、何も心配なく成長を見守っていたのですが、一つ気になることがありました。それは怖がりであるということです。

しかし、あるとき、性格や育て方だけに原因があるのではないかもしれない、と思うことがありました。保育園のクラスの懇談会に出席したとき、保育園の先生が「このクラスの子ども達は、今まで担当してきた子ども達、他の年齢の子ども達とは様子が違っている」と仰っていたのです。全体的に幼くて不安が強く、なかなか一歩が踏み出せない子が多い、と園での様子を話されていました。

そんな出来事があったあと、二〇一六年六月に灰谷孝さんの『人間脳を育てる』が出版されました。そこで初めて私は【恐怖麻痺反射】という概念を知りました。確かに息子は、息子たちの学年の子ども達は東日本大震災を体験している、お母さんのお腹の中で。現在のコロナ騒動の中での妊娠出産をされているお母さん達同様、当時のお母さん達も不安な日々を過ごしていたのだと思います。

発達相談で全国各地に伺っても、この年代の子ども達には同じような特徴が見られました。「特定の何が」ということはないのだけれども、いつもなんとなく不安感を持って生活している。内面的なことだけではなく、背中が固い、まっすぐ寝ることができない(赤ちゃんの体勢で丸まって寝る)、呼吸が浅いなどの特徴が顕著でした。また、暗い場所を極端に怖がる、揺れを怖がる、顔に水がかかるのが苦手などの身体・感覚的な特徴も共通していました。母親の身体に触れたがったり、まるでへその緒が繋がっているかのように、お母さんが不機嫌になれば子も不機嫌になり、お母さんが不安になれば子も不安になる、といった関係性の特徴もみられたりしています。

胎児期の子どもは、触覚(受胎後七・五週~十八週)、前庭感覚(二十一~二十四週)、味覚・嗅覚(十二~十四週)、聴覚(二十~二十四週)、視覚(二十三~二十五週)というように、妊娠初期から中期にかけて神経を発達させていきます。つまり、胎児もお腹の中で感じている。当時、数か月にわたってお母さんが不安を感じていたように、胎児も少なからず不安を感じていたのだと想像します。それが出生後、周りの世界を感じるときの枠組みとなり、頭ではなく身体・感覚が反応しているのだと思います。このように個人的な出来事(不規則な仕事、過重な労働、引っ越し、離婚や死別、DV、夫婦や親族との不仲)だけではなく、災害等の影響で胎児期の課題をもったまま、生まれてくる子ども達がいるのです。

コロナ禍で、分娩時だけではなく日常生活でも不安やマスクの着用が常態化しています。その影響は大人以上に、子ども達に大きく表れると考えられます。三歳の子どもにとって、この一年半は人生の半分。一歳半の子どもにとって、この非日常が人生のすべて。彼らにとっては、顔が半分見えないのが自然であり、密にならないのが常識になります。胎児が感じる外側の世界は常に不安で、かつ酸素が薄いため、共通の課題を持って生まれてくる子ども達が特定の年代に多くなるかもしれません。

しかし私はそんな子ども達の未来を悲観していません。何故なら、私達は過去から学び、未来を想像し、準備を行うことができるからです。

二〇二〇年、一度目の緊急事態宣言が発出され、予定していたすべての出張と仕事がキャンセルになってしまいました。当時の私は「未知のウィルス」に不安を感じていた一方で、子ども達の発達に関わる人間として何ができるか、この事態が終息した後のために何を準備すべきかを考え、行動していました。具体的には自粛生活やマスク着用により呼吸の発達に影響が出る子ども達が増えると想像し、呼吸器系、鼻や口の発達を中心に勉強し直しました。

このように書くと、私自身に先見の明があるような印象を与えてしまうかもしれませんが、事実はそうではありません。私が未来に向けた準備に歩みだせたのは、同じような危機感と課題認識を共有できた人達がいたからです。コロナ禍以前から同じ志で発達障害と向き合っていた親御さん達、実践家の人達は、いち早く自粛生活が与える子ども達への影響を指摘していました。顔が半分見えないことで表情を理解する力に影響が出るのでないか、口元が見えないことで発語や咀嚼の模倣ができないのではないか。酸素不足が神経発達に与える影響。身体接触や集団活動、運動や遊びの機会が制限されることによる心身の発達への影響など、主にSNS上で意見や情報が交わされていました。そして親御さん達は、園や学校に通えない今だからこそ、家でできる子育てをと動き出し、またそれを後押しすべく実践家の人達はインターネットを介した講演や個別相談の準備を始めていました。

子ども達の発達に本格的な影響が表れるのは、コロナ禍が終わってからだと思います。ただ、どういった影響が実際に出るかは、その時になってみなければわかりません。でも大丈夫です。発達のヌケや遅れは、「あとからでも取り戻せる」と教えてくれた元発達障害の子ども達、若者たちが大勢いるからです。環境によって神経発達に影響が出たのなら、環境によって改善、治すことができる。コロナ禍で受けた発達への影響も、きっと育て直す方法があるはずですし、そういった知見、アイディアを持った人は必ずどこかにいるはずです。もしなければ、人間らしく人と人が密に関わり合い、みんなで協力し、課題を解決するためのアイディアを生みだしていけばいいのです。

私自身も、その一人になれるよう日々研鑽と試行錯誤をしながら、子ども達のより良い未来のために準備していきたいと考えています。

二〇二一年 六月

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


画像アップロード(PNG, JPG, JPEG)